手に入れたもの:往復2時間の通勤が、ゼロになった
まず、自由は本当に存在します。
通勤がない。満員電車がない。「9時から17時まで席にいること」が前提ではない。公務員時代は往復2時間かけて通勤していましたが、それが丸ごとゼロになりました。1日2時間、月に換算すれば40時間以上が、そのまま手元に戻ってきた計算です。
早朝に集中して仕事を終わらせてもいい。子どもを保育園に送ってからカフェで作業してもいい。昼間に買い物に行って、夕方に残りを片づけてもいい。「時間の使い方を自分で決める」という感覚は、公務員時代には存在しませんでした。この自由は、日々の生活の質を確実に変えています。
ただし、これは最初から手に入っていたものではありません。公務員という安定を手放し、スクールにローンを組み、提案を50件以上送って断られ続けた先にある自由です。順番を間違えると、ただ収入がないだけの人になります。
失ったもの①:毎月決まった日に、お金は振り込まれない
公務員時代、給料は毎月決まった日に必ず振り込まれ、ボーナスも年2回、確実に支給されていました。フリーランスになって、その当たり前が消えました。
「今月の案件がなければ、収入がゼロになりうる」という状態を、人生で初めて経験しました。これは公務員時代には存在しなかった種類の不安です。
「公務員を辞めたのは正しかったか」と聞かれれば、今でも「正しかった」と答えます。ただ同時に、「安定という一点においては公務員が圧倒的に有利だった」というのも、辞めたからこそ分かる事実です。ここを美化するつもりはありません。
今この不安に対して意識しているのは、複数の案件を並行して持つこと、常に次の案件候補を切らさないこと、収入がある月に少し多めに蓄えておくこと。完全に消せる不安ではありませんが、付き合い方は身につきました。
失ったもの②:組織がやってくれていた「事務」が、全部自分に来る
会社や役所にいると、仕事は割り振られ、営業が案件を取り、経理が請求を処理してくれます。フリーランスになると、それが全部なくなります。
案件を探すのも仕事。提案文を書くのも仕事。面談の準備も、見積もりも、請求書の作成も仕事。そのうえで、コードを書くのも仕事です。「フリーランスになればコードを書く時間が増える」と思っていましたが、実際にはコードを書く以外の時間が想像以上に多い。ここは事前に知っておくべきでした。
なお、案件獲得そのものの苦労——提案が50件以上、期間にして3ヶ月以上、返信すら来ない日々——については、別記事に詳しくまとめています。技術学習より案件獲得の方がずっと難しかった、というのが正直な実感です。
一番のギャップ:確定申告と、社会保険の手続き
ここが、この記事で一番伝えたい部分です。技術の話ではなく、お金と手続きの話です。
公務員時代、税金のことは年末調整で完結していました。書類に記入して提出すれば終わり。確定申告をしたことは一度もありませんでした。
フリーランスになると、これを全部自分でやることになります。「経費とは何か」「青色申告と白色申告は何が違うのか」「領収書はどこまで取っておくべきか」——ゼロから調べる必要がありました。僕は最初の確定申告を、白色申告で、freeeというクラウド会計ソフトを使ってなんとか乗り切りました。ただ「本当にこれで合っているのか」という不安は最後まで消えず、次回は青色申告への切り替えと、税理士への相談も考えています。
社会保険も同じです。公務員のときは共済組合に入っていて、保険も年金も給与から自動的に天引きされていました。辞めた瞬間、国民健康保険と国民年金に自分で加入し、自分で納める立場になります。有給休暇もありません。病気や怪我で働けなくなれば、収入はそのまま止まります。そのリスクも自分で背負います。
正直に言うと、国民健康保険と国民年金の負担は、想像以上に重かったです。公務員のときは給与から自動で引かれていて、金額をまじまじと見たことすらありませんでした。それが、自分で納付書を受け取って自分で払う立場になると、数字の重みがまったく違って見えます。「毎月これだけ出ていくのか」と、最初は素直に驚きました。
金額そのものは前年の所得や自治体によって変わるので、ここでは具体額は書きません。ただ、転身を考えている人には「給与天引きで見えていなかったコストが、辞めた瞬間に可視化されて自分に請求される」ということだけは、先に知っておいてほしいです。この心構えがあるかどうかで、独立初年度の資金計画がまるで変わります。
転身する前に、技術の勉強と同じくらいの熱量で、お金の勉強をしておけばよかった。これは本気でそう思っています。辞めてから慌てて調べることになるので、辞める前に「確定申告の基礎」「国保・国民年金の切り替え」だけでも押さえておくことを、強くおすすめします。
(なお、税務や保険の取り扱いは制度改正や個人の状況で変わります。ここに書いたのはあくまで僕個人のケースなので、実際の判断は最新の公式情報や税理士に確認してください。)
学習は、案件を取ってからの方が増えた
「案件を獲得できたら学習は終わり」だと思っていました。現実は逆でした。
クライアントによって使う技術が違います。Laravelの案件の次にVue.jsが必要になる。テストコードの書き方を求められる。インフラの基礎知識が要る。案件を通じて「自分に足りないもの」が次々と可視化されていきます。
エンジニアとして働くことは、一生学び続けることを選ぶことなのかもしれません。ただ、それが苦痛かというと、そうでもない。学んだことがそのまま仕事に効く感覚は、この仕事の面白さそのものです。
公務員時代と、今
整理すると、こうなります。
得たものは、通勤ゼロ、時間の裁量、そして成果が直接自分の評価と報酬に返ってくる実感。失ったものは、毎月確実な給与、ボーナス、有給、共済、そして「組織が守ってくれる」という安心感です。
どちらが良いかは、価値観の問題です。安定を最優先するなら、公務員は本当に強い。それは辞めた今だからこそ、はっきり言えます。ただ僕は、「このままでいいのか」という違和感を抱えたまま働き続けることの方が、自分にとってはつらかった。だから選び直しました。
それでも、選んで良かったと言える理由
公務員を辞めるとき、僕はひとつの問いで決めました。「10年後に振り返って、行動した後悔と行動しなかった後悔、どちらが大きいか」。
その答えが、今も変わっていません。それが、挑戦して良かったと思える一番の理由です。
未経験からフリーランスになれるか、という問いには、「なれる。ただし簡単ではない」と答えます。HTMLも知らない状態から始め、スクールに85万円のローンを組み、提案を50件以上送って断られ、少しずつ実績を積んだ先に今があります。特別な才能があったわけではありません。やめなかっただけです。
ただ、その「やめない」が、言葉ほど簡単ではない。収入の不安、技術力への不安、「向いていないのでは」という疑念は、定期的に押し寄せてきます。
だからこそ、目指すなら大変な部分まで含めて知った上で選んでほしい。現実を知った上で選んだ人の方が、壁にぶつかったときに踏ん張れます。この記事が、その材料になれば嬉しいです。